-- 神永学オフィシャルサイト限定公開ストーリー 第1弾 --

「心霊探偵八雲 幽霊の住む部屋」
 神永学



    ◆ 第二回 ◆



「で、君はまた、トラブルを拾ってきたというわけだ――」
 晴香の向かいに座る男――斉藤八雲が、寝グセだらけの髪をガリガリと掻き回しながら言った。
 八雲が隠れ家として使っている<映画研究同好会>の部屋だ。
 不機嫌さを隠そうともせず、八雲は頬杖をついて、晴香をぎろりと睨んでいる。
「だって……放っておけないし……」
 晴香が主張すると、八雲はふんっと鼻を鳴らして笑った。
「そういうのを、お節介と言うんだ」
「言われなくても、分かってます」
 八雲に指摘されるまでもなく、自分がお節介だということは自覚している。ただ、こればっかりは直そうと思ってどうにかなるものではない。
「分かっているなら、断ればいいだろ」
「そういうわけにはいかないよ。本当に困ってるみたいだし、何とかしてあげないと……」
 晴香が主張すると、八雲は長いため息を吐いた。
「断る気がないなら、それでも構わないが、ぼくのところにトラブルを持ち込むな。君一人でどうにかしろ」
 八雲がぴしゃりと言う。
「そんな……」
 八雲が手伝ってくれないなら、自分一人で――と言いたいところではあるが、今回のような心霊がらみのトラブルでは、そういうわけにはいかない。
 今は、黒い色のコンタクトレンズで隠しているが、八雲の左眼は赤い。ただ赤いだけではなく、死者の魂を見ることができるという、特異な体質を持っている。
 それを活かして、これまで数々の心霊事件を解決に導いてきた。
 今回の愛子の相談も、幽霊が関係している。残念ながら、晴香には霊感の類いが皆無だ。八雲の協力なくして、事件の解決はあり得ない。
 それに、晴香一人で事件を解決しようとすると、必ずと言っていいほど、事態を悪化させてしまう。
「お願いします。何とか、協力して下さい」
 晴香は、八雲に懇願する。
「断る!」
「少しくらい、協力してくれてもいいじゃない」
「悪いが、ぼくは君のように暇ではない。これから、授業があるんだ」
 八雲があくびを噛み殺しながら言うと、席を立った。
「今日じゃなくてもいいから、お願いします――」
 晴香も立ち上がり、両手を合わせて拝むように深々と頭を下げる。
「何度頼んでも無駄だ。だいたい、一文の得にもならないトラブルを、どうして拾ってくるのか理解に苦しむ」
 八雲は、突き放すように言ったが、その言葉に晴香は活路を見出した。
「得にはなるよ」
 晴香が言うと、八雲の動きが止まった。
「ん?」
「報酬は、ちゃんと出るよ」
 晴香が告げると、八雲の左の眉がピクッと撥ねた。
「友だちに報酬を求めるとは――君は、いつからそんなにがめつくなったんだ?」
 ――がめついって……。
「違うよ。愛子が自分で払うって言ったの」
 晴香は力強く主張した。
 彼氏の部屋に引っ越したばかりで、怖いからまた引っ越しとなると、それなりにお金がかかる。
 自分色に染めた部屋のインテリアなんかも無駄になってしまう。それより報酬を払った方が、安上がりだと考えたわけだ。
 そもそも、愛子は晴香に心霊現象を解決して欲しいとは思っていなかった。
「晴香の彼氏って、霊媒師なんでしょ! お願い! 助けて!」
 愛子は、そう懇願してきたのだ。
 八雲は霊媒師ではないし、晴香の彼氏でもない。
 色々と間違っているが、八雲と関わり、様々な心霊事件に首を突っ込んだせいで、あらぬ噂が流れていることは、何となく耳に入っていた。
 噂話には尾ヒレが付くとはよく言ったものだ。
 一応、その辺りを説明してみたのだが、愛子はあまり理解してくれなかった。
「君は、ぼくが金で動くと思っているのか?」
 八雲が、苛立ちを滲ませた声で問いかけてきた。
 その言葉を聞き、少しばかり反省する。金で動く人間だ――などと思われて、いい気分になる人はいない。
「ごめん……」
 晴香が視線を落とすと、八雲がこれみよがしにため息を吐いた。
「で――。一応、聞いておく」
 八雲がポツリと言った。
「何を?」
「金額は、幾らなんだ?」
 ――はあ?
 晴香が、顔を上げると、八雲は無表情を装っていたが、その奥にある金銭欲を隠しきれていなかった。
 謝って損した――。
 
 
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